ヒトザル

森は、黒々とした杉の群落と落葉した裸木がまだらに広がっている。下草はその場で立ち枯れ、薬草はもう採れる時期ではなさそうだった。が、分厚い落ち葉の銅鑼灣 髮型屋かさなりの下に、草の根はたくましく生長している。葉を落とした木々の枝には次の春に伸びるちいさな芽が角ぐんでいた。
針葉樹の群落の下に入るととたんに見通しが悪くなる。みっしりと葉をつけた枝と枝が絡まりあい、つる草が顔の前に垂れ下がる。
トギホは、打ち払おうとしてふとそれを手に取り、つと上をみあげた。

蔓には撚り合わせた跡がある。手に持つにちょうどよい綱だ。トギホは綱を強く引いた。枝を伝って登ってみる。身体は大きくなったが、舟で鍛えた身軽さでするするとのぼる。枝は、何度も踏まれて表皮がはがれ、滑らかな木肌が表れている。
「ははあ、これは、人間の作った仕掛けだぞ。木と木の間にも蔓が渡してある。」
上の枝にも何かありそうだ。登ってみようと背伸びしたとたん、どんと背を突かれた。とっさに蔓を握りしめてぶら下がった。めりめりき雪纖瘦しんで綱が伸びる。綱を手放して飛び降りた。蔓は蛇のように跳ね上がって枝の間に消えた。
トギホを突き落した怪物は、枝をわさわさ揺らし、恐ろしい勢いで飛び去っていく。
全身茶色の毛でおおわれているが、このあたりの猿よりよほど大きな生き物だ。

琢は地上のけもの道を走った。木の根や、岩の露頭に足を取られながら、枝と枝を繋いでいる蔓の類を薙ぎ払い切り払う。自然に垂れているように見える蔓が、化け物の樹上のすばやい動きの種になっていると見て取ったのだ。
枝の揺れがしだいに遠くなっていく。追いきれない、と、琢は髪留めを引き抜いて投げた。ギラリと光りの尾を引いて怪物がつかもうとしていた蔓をかすめ、その先の大木の幹に突き刺さった。怪物は一瞬手を止めた。すぐに伸ばしたが、大きく揺れる蔓にわずかに届かない。次へのつながりがとぎれ、細い枝先から動けなくなった。
トギホがその木にかけより登りはじめる。枝にとりつくと、力任せにゆさぶり始めた。怪物は枝先にしがみついている。みしみし、枝が悲鳴の瘦面療程 ような音をあげた。今にも折れそうだ。

「やめてー、やめて下さい。」
いきなり切り裂くような甲高い声があがり、振り向くと驚くほどの素早さで娘が駆けてくる。

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